特設ページ2020
『埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2020』で第1位に選ばれた作品『雲を紡ぐ』について、著者の伊吹有喜さんにインタビューの機会をいただきました。
本作は、「別冊 文藝春秋」での連載後単行本化された作品です。今回、連載時の担当編集者と単行本の編集者にもお話を聞くことができました。
伊吹有喜さんインタビュー
その①〜編集者・角田国彦さんをまじえて〜
木下(インタビュアー)
この本は『別冊文藝春秋』で連載された後、単行本として出版されました。まず伊吹さんと、『別冊文藝春秋』でご担当をされた角田さんにお話を伺います。
この本は家族がテーマの物語。学校に行けなくなってしまう高校生の美緒ちゃんが主人公ですが、高校生を主人公に選んで、こういったテーマの本を書こうと思ったきっかけを教えて頂けますか?
伊吹さん
ホームスパンという布がこちらです。いま羽織っているものが、物語の中にも登場する赤いショールなんですけれども、私は、このホームスパンという布に大変心惹かれました。調べていく中で、ホームスパンは本当に親子孫3代が使える、とても丈夫で、しかも年月が経てば経つほどしなやかで美しくなっていく布というところも、好きになりました。
連載するにあたって、最初は別の物語を考えていたんですけれども、親子孫3代が着られるというところから、親子孫3代の物語がいいのではないか、と思いました。
主人公をどうしようかと考えた時に、ホームスパンの良さ、ものづくりの大変さ、面白さ……そういうことを深く理解できるのは、とても多感な15歳から18歳の時期だろう、と。その時期の少年少女たちが一番、物のよさ、素晴らしさを素直に感じ取れるのではないか。そのように考えて、高校生の美緒ちゃんという登場人物が生まれました。
木下
ホームスパンを題材に作品を書かれたいという気持ちが強い中で、作品の登場人物がどんどん生まれていったような形でしょうか。
伊吹さん
そうですね。本当に、このホームスパンに導かれて、いろいろな登場人物が現れてきたという感覚です。
木下
盛岡をたくさん取材されているということで、角田さんが岩手のご出身ということも伺ったんですけれども、作品を作るにあたって、伊吹さんとのやりとりではどんなことがありましたか?
角田さん
本当に偶然だったんですけれども、伊吹さんがこのホームスパンのお話を考えたときに担当編集者として付かせて頂きました。これも偶然なのですが、僕が高校時代に盛岡に住んでいたものですから、最初は「高校時代に僕はこんなところに行きましたよ」「福田パンに行きましたよ」「じゃじゃ麺食べましたよ」と、差し出がましいですが、ちょっと、教えて差し上げるつもりで、ご案内したんですけれども……。その後、伊吹さんがあっという間に盛岡に通い詰められて、僕がいつの間にか盛岡について教えていただくようになりました。そのくらい緻密に取材されていましたね。
木下
「本の話」でも、リンゴジュースのお話(※)を読ませて頂いて、「ひとつのものを出すことに対して、こんなに深く考えて作品を編まれているんだ!」と感じたんですけれども、もっとそういうエピソードがあれば教えて頂けますか? また、登場人物一人ひとりのキャラクターが生き生きとしているので、高校生にこういうところに注目して読んでもらいたい、というところはありますか?
伊吹さん
そうですね。色々あるんですけれど(笑)。例えば、漆のお椀って、遠くから見れば普通にお椀なんですけれども、よく見ると、照りが美しく、きれいに輝くんですね。その輝きが、何かに例えたくても例えづらくて、しいて例えるとしたら「宇宙」というのでしょうか。ひとつのお椀の中に銀河の輝きを見る、みたいなスケールの大きさがあります。
ひとつのお椀に、漆を塗る人、お椀の形を作る人……様々な職人の工程があって、その工程で職人が全力で作っているからこそ、素晴らしいものになっているんだと。
それを手にしたときに、「綺麗だなぁ」とぼんやりと見つめてしまったり、唇に当てたときに「とても気持ちがいい」と感じたり、「手仕事の作品」からは、そんなことも体感できると思います。
岩手県は漆の産地でもありまして、取材の中で、漆の器ってこんなに素敵なものなんだ! ということに気が付きました。物語の中でも、美緒ちゃんがお椀を見て、すごくきれいだ、真珠色の光沢だ! というようにワクワクするシーンがあります。ホームスパンという職人がつくったものに心惹かれて取材に行った先で、さらに素晴らしい手仕事に出会ったのです。
あとはやっぱり、お母さんが好きな英語の「あの本」とか。
木下
「あの本」ですね! 私たちは司書なので、作品で参考文献がきっちり出ていて、「あ、これ知ってる!」とか「これ読んだし子どもたちにも薦めたい!」という作品がすごく多くて。
伊吹さん
そうなんです。お母さんの真紀が好きだった本。例えば『イギリスのお話は、おいしい。』とか『のばらの村のものがたり』ですとか。
イギリスのお話は、おいしい。
: すてきなティータイム
MOE 編集部 白泉社 1996年ISBN 9784592731351
愛蔵版 のばらの村のものがたり全八話
ジル・バークレム(著)岸田衿子(訳)
講談社 2001年
ISBN 9784061892132
伊吹さん
もうひとつ、私はこの作品を書く中で、あらためて宮沢賢治さんのすごさを感じました。作品の中でも、美緒ちゃんがおじいちゃんの石のコレクション、綺麗な石、素晴らしく美しい色を見て、宮沢賢治さんの作品はこんなに色にあふれているのか! と感じるシーンがあるんです。
文字で読んだ時点で、宮沢賢治さんの作品はすごく美しいので、私もわかったような気でいたんですけれど、『雲を紡ぐ』の執筆を通して、宮沢賢治さんの鉱物の資料や鉱物の写真、出てくる鉱物の実物を目で見てみると、「なんと絢爛豪華な、美しい色にあふれた物語なのか!」ということにあらためて驚かされました。そうした宮沢賢治さんの「色の世界」というのも、高校生のみなさんがご覧になると、「石ってこんなに綺麗なのか!」「このアズライトの青!」とか、感激があるんじゃないかと思います。
それからもうひとつ。「銀河鉄道の夜」がモチーフとなって何回か出てくるんですけれど、「銀河鉄道の夜」であったり「水仙月の四日」であったり、いろいろな画家さんが絵を描いていらっしゃるところも素敵ですね。
宮沢賢治 宝石の図誌
板谷 栄城(著)
平凡社 1994年
ISBN 9784582367058
銀河鉄道の夜
宮沢 賢治(著)清川 あさみ(絵)
リトルモア 2009年
ISBN 9784898152782
水仙月の四日
宮沢 賢治 (著), 黒井 健 (イラスト)三起商行 1999年
ISBN 9784895881128
木下
絵本もたくさん出ていますよね。
伊吹さん
絵本には、画家さんの世界というか、画家さんの個性があふれていて、いずれも素晴らしく美しいんです。ひとつの物語から、こんなにたくさんの美しい絵本が生まれるというのも、とても興味深くて。そういった色彩の豊かさにも惹かれました。
それから、本から本に……私自身も、宮沢賢治さんの本から、鉱物の本や絵本、いろいろ興味が広がっていきまして。それが作中の美緒ちゃんの驚きにも重なっていますので、『雲を紡ぐ』をお読みになって興味をお持ちになって下さったら、その本もきっと図書館にあると思いますので、司書さんに聞いて、ぜひ手に取ってください。
木下
ありがとうございます!
伊吹さん
どれも素晴らしく面白い本です。
木下
角田さん、連載ということは締め切りもあると思うんですが、伊吹さんが盛岡について興味を広げていくなかで、編集者として寄り添っていかれるときに、伊吹さんにはどのようにお声掛けをされていたんですか?
角田さん
伊吹さんが非常に考えてくださっているので、僕はもう「頑張ってください!」とお伝えするだけでした(笑)。とにかく、原稿を楽しみにお待ちしていました。
木下
じゃあ「一番最初の読者」というか。
角田さん
そうですね。最初に読ませてもらえるのを本当に毎回楽しみにして、原稿をお待ちしていました。
木下
その中でやっぱり、盛岡の描写のことは、ご自分の青春時代と重ね合わせたところもあるんでしょうか?
角田さん
そうですね。さっきも申し上げましたけれども、伊吹さんがどんどん詳しくなっていくので、逆にもう、途中からは、私が盛岡の魅力を教えてもらうようでした。「こんな素敵なところがあるんですね」ってこと、住んでいたときは前を素通りしてたようなお店のことを、改めて発見するような体験をさせて頂きました。
伊吹さん
角田さんには、ものすごく助けて頂いているんですよ……。
木下
それは例えばどんなところで?
伊吹さん
作品を書く中で、いろいろ困ると電話をして、相談をしていました。私は、好きなものがあるとすごく書き過ぎるきらいがあるんですけれど、「これは書き過ぎでしょうか?」とか(笑)。
木下
いま羽織ってらっしゃるのがそうですよね。
伊吹さん
そうなんです。あと、「おじいちゃんのこのセリフは、盛岡の方言で言うとどんな感じでしょう?」とか。
木下
方言がとても文章の中で自然に使われていて。ご出身が三重県と伺っていたので、「よく言葉がお分かりになるなぁ」と思っていたんですけれども。
伊吹さん
たくさんたくさん相談させてもらったからだと思います。それ以外にも、小さなことでも困るとやっぱり編集者さんに、頼りました。最初の読者さんが、「あれ?」と思ったり「おや?」と思ったところは、当然読んで下さる方も「あれ?」と思ったり「おや?」と思うところだと思いますので、本当にいろんなことを相談しながら、二人三脚という感じで進めてまいりました。
木下
お時間があったら本当はもっとたくさん伺いたいのと、あと私たち撮影の技術が足りないものですから、本当はみなさん(伊吹さん、角田さん、秋月さん)入って頂いてお話を伺いたかったんですけれども。ここで角田さんの方にはインタビューを終わらせて頂きたいと思います。短い時間でしたが、ありがとうございました。
伊吹さん 角田さん
ありがとうございました。
伊吹有喜さんインタビュー その②
〜編集者・秋月透馬さんをまじえて〜
木下
ここからは単行本の編集者である秋月さんに入って頂き、お話を伺いたいと思います。
雑誌の編集者と単行本の編集者さんは違う、というのを知らなかったんですけれども、単行本の編集ってどんなことをされるんですか?
秋月さん
単行本を作る作業というのは、連載時の角田くんと伊吹さんと、二人三脚であるんですけれども、その完成度をさらに高める、行程です。ちょっと時間を置いて、「より読者につたわりやすくするために、もっと作品をこうした方がいいのではないか」、という視点で、伊吹さんとのディスカッションをさせて頂いたり、実際に改稿するにあたっては、盛岡を訪ねて、主人公の心情と、伊吹さんがご覧になった盛岡の景色を、重ね合わせていただきました。そういった改稿を目の当たりにして、改めて感激しました。連載を終えた作品を、さらに高みへ持っていくための伴走をさせて頂く仕事というのでしょうか。
木下
実際に、一緒に盛岡の方に何回も取材に行かれて、ホームスパンのことも……?
秋月さん
そうなんです。伊吹さんは、すでにホームスパンにまつわることについて、ものすごく詳しい状況でいらっしゃったんですけれども、最終的に、とても繊細な部分を、ホームスパンの先生方にお聞きしていらっしゃいました。取材して取材して、膨大な情報があります。それを全部書くのではなくて、物語に必要な部分だけを残す、つまり、そぎ落とす作業が素晴らしかったんです。だからこそ、作品にかけた膨大な時間の「ほんの一端」が、物語として輝くといいますかね。
木下
先生がいま羽織ってらっしゃるショール、美緒ちゃんのイメージがすごくあるんですけれど……??
伊吹さん
このショールは連載が始まる前に、「蟻川工房」さんという今回の取材をさせて頂いたホームスパンの工房に伺って、「17歳の女の子の初宮参りのときに、おじいちゃんが作ってくれて、それからずっと心の拠りどころ、相棒のようにして使う赤いショール」というイメージで織って頂けませんか? とお願いして作って頂いたものなんです。ですので実を言いますと、私が羽織るにはやや若いといいますか(笑)。
木下
いえ、お似合いです!
伊吹さん
ありがとうございます。17歳に向けたショールですので、ちょっぴり照れはあるんですけれど、(作中のショールは)こういうものだ、ということで今日は羽織っています。
木下
あとそちら(テーブル上には羊の小物が)、かわいい羊ちゃんがいっぱいですよね。
伊吹さん
ホームスパンの取材で、「中村工房」さんという工房にも、とてもお世話になったんですけれど、そちらでお作りになっている羊ちゃんです。「中村工房」さんもショールやマフラーを作ってらっしゃるんですけれど、取材に行ったときに「こういうものもあるんですよ」ってプレゼントして頂いて。こうやって持っていたら、この柔らかさにとても癒されまして。それが作品内の「メイさん」に繋がっております。メイさんは実はこの子です。
木下
それだったら、高校生にも買えますかね?
秋月さん
その後、製品化されまして。お値段も手の届く範囲だと思います。
木下
えっ、そうなんですか!?
秋月さん
「中村工房」さんのホームページを見て頂けたら、中村工房さんの作品を取り扱っているお店も紹介されていますので、ぜひ。
木下
では、私たちのホームページにもリンクを貼らせて頂きますので、興味がある人はぜひお求め頂けたらと思います。
伊吹さん
私、考え事をするときにこうやって(羊を)にぎにぎしながら考え事するんですけど、とっても心がなごみますし、アイデアも浮かぶんです。
木下
受験勉強している高校生にもぴったり!(笑)
秋月さん
ストレスが和らぐ感じですよね。
伊吹さん
和らぐと思います。持ちながら単語を覚えたり。そうすると「にぎにぎしたときに覚えたあの単語だ!」とか、どこかで役に立つかもしれないですね。
木下
うちの生徒にもよく言っておきたいと思います。
伊吹さん
こうやって「心を逃がす」ものが――例えばこれは羊ちゃんですけども、メイさんであったり、本であったり――心が行き詰って、やるせないときに、「心を逃がせるもの」があると、本当に体が楽になるんです。学園生活って意外と……意外とじゃなくて、ストレスが多い。楽しいことも多いけれどストレスも多いですよね。社会人も同じですけどね。
秋月さん
さきほど、伊吹さんが「心を逃がす」と仰っていたんですけれど、これは今回の作品のテーマの一つでもあります。登場人物でいいますと、美緒ちゃんは学校に行きづらい。父親の広志も会社がつらい、家庭もつらい。「心がしんどいとき、わたしたちはどうしたらいいの?」というところがひとつの読みどころでもあるんです。文学YouTuberのベルさんと伊吹さんに「心の逃がし方」について対談して頂いた企画もありまして、そこでお二人が、「心を逃がす」ってどういうことなんだ? というのを話し合ってくださった対談も、とても面白かったので、ぜひみなさんご覧頂ければ。
著者・伊吹有喜さんと、「文学YouTuber」ベルさんによる、「心の逃がし方」をテーマにした対談は下記のとおりです。
木下
うちの生徒にもよく言っておきたいと思います。
伊吹さん
どうしよう……。ちょっと照れてしまいます。(笑)。
木下
いまの高校生はきっと、「かわいい!」って言うと思います!
伊吹さん
そうなんでしょうか(笑)。
秋月さん
大丈夫です(笑)。さらにそのときに、ベルさんの質問で興味深かったのは、「美緒ちゃんの視点」から本を読んだときに、「美緒のお母さんが、なかなか厳しい」ということでした。娘に対する、母親の厳しさを、伊吹さんが書かれたのはどういう理由からでしょうか。
伊吹さん
お母さんは厳しいんですけれど、やっぱり親って、子供に弱いところを見せちゃいけない、なるべく子どもには安心していてほしい……という気持ちから、自分のつらさとか弱さを見せないことが多いんです。そうなんですけれど、実はお母さんも、お父さんもつらかったり、悲しかったり、本当にギリギリのところで頑張っている。自分も17歳のときのことを振り返ると、子供にとって大人、特に親って、完璧であってほしいと考えています。だから、「どうしてわからないんだ」とか「どうしてこんなことが」と、親に思ったりするんです。でも大人になって考えてみると、お父さんもお母さんも、やっぱり一人の人間。かつては18歳だった少年少女が、大人になって40歳や30歳になったという感じなので、やっぱり弱いところもあって。この作品の中では、どうしようもなくて……(大人の弱さが)こぼれ出るようにして、出ちゃったという。
美緒に対してつらく当たっているようで、あれはお母さん自身も悲鳴を上げているところなんです。美緒に「立ちなさい」って言うところがあるんですけれど、あれはお母さん自身も自分が崩れ落ちそうで、しゃがみ込みそうなつらさを抱えているから、自分自身にも「立ちなさい」と言っているシーンでもあるです。一見、怖くて嫌なお母さんに見えるかもしれませんが、お母さん自身もギリギリで一生懸命なんだということを思いながら書きました。
木下
高校生の視点だとそうだと思うんですが、この番組は先生方もたくさん見ていて、保護者の方も見ています。私は母の立場でもあるんですが、共感できるところもある。この作品は一人ひとりの登場人物が相手を思いやって、自分の幸せよりも、他の人がどうやったら幸せになれるかを考えながら動いている。家族をテーマにした小説って、ここ1年くらいとても多かった気がするんですけれど、読んだ後に希望が持てる、とても良い作品だったと思います。
伊吹さん
ありがとうございます。そう言って頂いて本当に嬉しい。
木下
この本は「高校生直木賞」の候補作としても選ばれていますので、より多くの高校生にも読んで頂けたらと思います。
本当はもっと時間をたっぷりとって、先生にお話を伺いたかったんですけれども……。
最後に、伊吹さんから高校生にメッセージがあればお願いします。
伊吹さん
高校時代はいろんなことがあって、ときどきやるせない思いをしたり、自分に居場所がないような気持ちになったり、不安になったり……と、いろいろ思うことがあるんですけれど、そういうとき、もしよかったら、本を1冊手に取ってみて下さい。本を読んでいると「一人のようで一人じゃない時間」が流れます。登場人物が、読んでいる人と一緒に泣いたり笑ったり。そして何よりも、書いている著者も、「読者の心に寄り添えれば」と思いながら書いています。ですので、よかったら、ぜひ本を手に取ってみて下さい。そこにきっと、あなたの居場所がありますから。
木下
ありがとうございました。私たち高校司書は、読者と作家さん、編集者さんなどの作り手を繋ぐ仕事をしています。この映像を見ていて「どんな本を読んだらいいかわからない」という方がいたら、ぜひ学校の図書館に行って、司書がいる図書館なら司書に「私にどんな本が合ってるかな?」と言って紹介してもらって下さい。私たちはそれを求めていて、いま伊吹さんからそう言って頂いたのがとっても嬉しかったです。
〜まだまだお話が盛り上がって〜
伊吹さん
きっと司書さんに相談したら、いい本をご紹介して下さるでしょうし、大人になったときに、「あのとき司書さんに勧めてもらった本、こういう意味だったんだな」って、気が付くときもあるだろうし。1冊の本を、18歳17歳ぐらいのときに読んで、それが20歳になって30代になって40代になって読み返すと、感じ方が変わってくるので。良い本に高校時代に巡り合うと、一生の財産というか、一生の友達になれるんじゃないかと思います。私自身も本当に好きな本があって、この年になっても読み返すといろいろ発見があるし……。
木下
ちなみに、何の本ですか?
伊吹さん
最近読んで「あぁ!」と思ったのは、少女小説なんですけれど『赤毛のアン』シリーズ全10巻。この間読んでみて、昔はアンにすごく思い入れがあったんですけれど、いまこの歳になると、マリラとか。
秋月さん 木下
あぁ~!
伊吹さん
赤毛のアンを引き取ることになった、ある程度年代のいった兄妹がいまして。マシュウっていう兄が、アンをすごく可愛がるんですけれど、その気持ちとか。マシュウは第1巻で亡くなっちゃうんですけど、マリラはその後アンを大学へ進学させたり、一生懸命彼女を支えていく。この年齢で読みますと、マリラの方に気持ちが移るんですよね。周辺の人たちに心が移って、それからまたアンという登場人物に心を重ねてみると、10代の頃に読んだのとは違う、広くて鮮やかな世界が広がっているんです。
講談社青い鳥文庫
赤毛のアン(新装版)
ルーシー.モード・モンゴメリ(著/文),
村岡 花子(翻訳), HACCAN(著/文)
講談社 2008年
ISBN 978-4-06-148793-2
木下
本当にすごいですよね。
伊吹さん
見方が全く変わってくるんですよね。登場人物たちは、第一次世界大戦に巻き込まれるんですけれど、後半でアンの息子たちが従軍して、一人が亡くなったりするんですね。そういうのを見ると、ある意味大河小説ですよね。子どもの頃は可愛らしい少女小説って思っていたんですけれど、大人になってみると「一人の女性の大河小説だったんだ」と。とても感慨深いものがありました。
木下
昔の名作って全部そんな感じで、この頃の作品でもそういうものがもっと出てきたらいいなと思っているんですけれど、その意味で伊吹さんの今回の作品は、どの年代が読んでも感動できて、面白いものだと思います。
伊吹さん
嬉しいです。高校生のみなさんが(本作を)ご覧になって、やがて大人になって、何十年か経ってからお読みになったとき、今度はお母さんの心境、お父さんの心境で、また長く楽しんで頂けたら。作者としてこんなに嬉しいことはなくて、そうであったらいいなと心密かに願っております。
木下
本当にもっともっとお話を聞きたいところなんですが、これで閉じさせて頂きたいと思います。本日は伊吹先生、そして文藝春秋の秋月さん、角田さん、本当にありがとうございました。
伊吹さん 角田さん 秋月さん
ありがとうございました。